私たちリバーワークスは、神戸を中心に公園や廃校などの場所を起点として、エリアの活性化をめざした取組みを続けています。「この場所がもっと愛される場所に育っていくことで、エリア全体の人の流れや捉えられかたが変わるのではないか。」そんな想いに突き動かされて、実践と思索を繰り返してきました。
ただ、そんな営みをどう表現すればよいのか、長い間、自分のなかでははっきりしませんでした。
そんななか、2018年にオーストラリアのメルボルンを訪ねたときに出会った言葉が「プレイスメイキング」です。メルボルンが「世界で一番住みやすいまち」として評価されるようになった背景には、行政のイニシアティブとそれに呼応した民間の実践力があります。マーケットを再生したり、街角の小さなスペースに賑わいを作ったりといった、実践の数々を示す言葉として「プレイスメイキング」は自然に使われていました。
日本には「場づくり」という言葉があります。プレイスメイキングを日本語に直訳すると「場づくり」になるように、構成がとても近しい言葉です。一方で、会議やワークショップにおいて話しやすいムードをつくるときにも「場づくり」は使われています。特定の場所とは紐付かないことも多い言葉です。
また、「まちづくり」とプレイスメイキングも方向性は近いと感じます。その一方で伝統産業の活性化やイベントなど幅広い活動が「まちづくり」と表現されることも多く、こちらも特定の場所とは紐付かないことが多い言葉です。
どこか特定の場所に注目して、その場所への愛着を高めていくプレイスメイキングは、他の2つの言葉と連続性はもっていますが、完全に置き換えられる言葉ということではなく、パブリックスペースの活用に注目が集まるなかで、そのスケール感と最も近く、しっくりくる言葉だと思います。
自分が住むまちをよくしていこうと考えて行動することは、近年になって初めて注目を集めているわけではありません。むしろ、歴史がはじまって以来、人間はずっと身の回りの空間をよりよくしようと働きかけていたわけで、まちの整備を行政に委ねればよいという考えは、近代社会が成立してからわずか数十年の歴史しかもたないのではないか、と考えたりします。
これほど長い歴史がある活動を横文字で表現するのは、なんだか不思議な気持ちですが、あえて分析的に考えるならば、近代社会成立前には整備の必要に駆られて、あるいはコミュニティのなかでの義務として捉えていた活動とは違い、現代のプレイスメイキングは能動的に行われるところに違いがあります。過去に行われていた「まちへの働きかけ」が、プレイスメイキングに置き換えにくいと感じるのも、ここに理由がありそうです。 リバーワークスは、エリアが変わっていくことをめざして活動しています。「プレイスメイキング」は今のところちょうどいい言葉だと感じていますが、この言葉を選ぶことが妥当なのか、引き続き意識的に考えていきたいと思います。
文/村上豪英