Placemaking Lab for Livable Cities
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蛍光ペンとプレイスメイキング

お気に入りの本のお気に入りのテキストに、蛍光ペンでハイライトした経験があるだろうか。最近は電子書籍にもそんな機能がついていて、文章をなぞると色がついていく。

文字に蛍光色をまとわせる(もしくは付箋を大量にはみ出させる)目的はさまざまあるだろうが、まずひとつはたくさんある文章の中から、もう一度その言葉をパッと見つけられるようにするための「参照性」であろう。この言葉はとても響いた、またいつか参照したい、そんなときに人はマークをして、何万字の中からその言葉を“自分のもの”にしていく。

この過程を繰り返していくと、ハイライトした「本」自体に価値を感じることもある。受験生の英単語帳を思い返してほしい。何度も何度もマークを付けて、付箋を貼り、どんどんと単語帳が汚れていく。重要なものを記憶するための手段で始めたマーキングであるが、机に置いた単語帳をみるたびにこれまでの過程が思い出されて、汚れた単語帳は「自分の一部分」になる。汚れた本自体が価値になる時、蛍光ペンが使われる目的は知らないうちに言葉ひとつひとつからその集合へと移っている。

私たちのチームでは、ここ2年ほど神戸市バスの7系統という、神戸市の中心三宮から兵庫区北部や神戸のB面と言われる新開地などを通り神戸駅に終着するバス路線のブランディング企画「Kobe City Bus Route 7 Project(略称:ルートセブン)」を行っている。神戸市交通局の皆さんも面白がって賛同、協力してくださっているが、お助けいただきつつ、できるだけ民間(それも沿線の皆さん)のパワーを集めてコツコツとやっている企画である。

ルートセブンで具体的にやっていることは、もしご興味があればリンクを見てみていただきたいが、MAPを作成したり、動画をつくったり、スタンプラリーをしたり、マルシェをしたり、、、と様々なものを「7系統沿線」という切り口で展開している。https://koberoute7.official.ec/

このプロジェクトを通して私たちがしたいことは、「ハイライト」することによってバス沿線という街の新しい地域単位を生み出し、魅力を再発見することである。「沿線価値」と聞くと、大手鉄道会社が線路沿いに魅力的な街をつくる活動を思い浮かべる。そこには沿線に土地を持っていてその土地の価値を上げる、行きたい理由を増やし乗降客数を増やすといった、利益に直結する経済の力がある。そして、既存にあるものももちろん活用しながらではあるが、「何を新しく沿線価値とするか」を生み出そうとする。

一方で路線バスの沿線は、意識されたことがあまりないように思う。少なくとも友人と「私○○バス停の近く」「○○系統が走っている」という会話はしたことがないし、されたこともない。愛知、兵庫、東京と住んできたが、そのどこでもない。人口減少の文脈から、市営バス自体のイメージアップや利用増進のための活動はあるようだが、バスが走る街のことを考えるような解像度ではない。

ルートセブンではまず、「バス路線」を私たちが主張した。本の出版と同じように、この路線がおもしろい、とシンプルにMAPを描いて表明してみたのだ。すると、実は知人が7系統ユーザーだったり、この場所にこんなお店があるよ、と教えてくれる人が現れたり。沿線にあった“自分のハイライト”をみんなが持ち寄って、私たちのつくった「7系統沿線という本」を“汚し”はじめた。

ここから先はまだまだ道半ばだが、ルートセブンは、この“汚して”いく行為を大切にしていきたい。これまでみんなが心の中にしまっていた「ハイライト」を集めて、沿線が「受験生の英単語帳」になっていく。そして、マークだらけの7系統をしげしげとみんなで眺めたり、新しく街を訪れる人に見てもらったりするのだ。

大切なものを集めていくと、集合自体がプライドになる。沿線はその時本当に「価値」が上がるのではないだろうか。